本研究課題は、我が国の多収イネ品種の1つであるタカナリと、その祖先品種(緑の革命の立役者IR8を含む)の個葉光合成能と光合成関連形質の調査・比較・遺伝解析を通して、各形質の選抜由来を探り、多収品種の育種過程における光合成能の重要性を明確にするとともに、タカナリの光合成能の向上に寄与する遺伝変異を探索することで、今後の多収育種の方向を示すことを目的とした。 22年度は、タカナリと祖先品種である10品種およびコシヒカリを栽培し、出穂期の止葉の光合成速度および関連形質を調査した。出穂期が1ヶ月早かったユーカラを除くと、タカナリが最も光合成速度が高く、統一とJinheungがタカナリ並の個葉光合成速度を示した。IR8の光合成速度はコシヒカリよりも低い値であったが、IR8の出穂期はタカナリやコシヒカリに比べて3週間遅く、晩生による影響は考慮すべきと考えられた。光合成関連形質については、葉身N濃度が相関係数0.84と光合成速度と最も相関が高く、続いて気孔コンダクタンスが0.82と高い相関を示した。以上より、タカナリは、その育成過程で、高い葉身N濃度や気孔コンダクタンスが選抜されてきた結果、高い光合成速度を獲得した可能性が示唆された。 上述した可能性を遺伝学的に裏付けるために、コシヒカリにタカナリ、統一、IR8を交配し、F_1種子をそれぞれ採取し、遺伝解析材料の作成に取組み始めた。
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