カンキツ果実は、カロテノイド含量・組成が多様である。ウンシュウミカンの砂じょう(果肉部分)では、主にβ-クリプトキサンチンを蓄積する。バレンシアオレンジの砂じょうでは、主にビオラキサンチンを蓄積する。リスボンレモンの砂じょうでは、低レベルのカロテノイドが蓄積する。本研究では、カロテノイド含量・組成の異なる上記カンキツ3種の砂じょうを培養し、カロテノイド含量・組成ならびにカロテノイド関連遺伝子の発現に対する植物ホルモン(アブシジン酸、ジベレリン)および水分ストレス(スクロース、マンニトール)処理の影響を調査した。カンキツ培養砂じょうにアブシジン酸処理により、3種いずれもカロテノイド関連遺伝子の発現は増大する傾向を示したが、カロテノイド含量に顕著な変動は認められなかった。これは、カロテノイド生合成に関わる遺伝子の発現上昇と同時に、カロテノイドの分解に関わる遺伝子の発現が顕著に増大したためであると考えられた。ジベレリン処理により、3種いずれもカロテノイド関連遺伝子の発現は減少する傾向を示し、カロテノイド含量も減少した。また、スクロースおよびマンニトール処理により、3種いずれもカロテノイド関連遺伝子の発現は顕著に増大する傾向を示し、カロテノイド含量は急速に増大した。特に、マンニトールを6%処理した培養6週のウンシュウミカンの砂じょうでは、マンニトールを処理しないものと比較して、β-クリプトキサンチン含量が約7倍に増大した。以上の結果から、アブシジン酸、ジベレリンなどの植物ホルモンやスクロースおよびマンニトールによる水分ストレスは、カンキツ果実の成熟過程におけるカロテノイド、特に、キサントフィル含量・組成の調節において重要な役割を果していることが示唆された。
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