果樹の隔年結果の生理メカニズムの理解を目的とし,花成関連遺伝子の役割について着目した.カキとブドウで有核果実もしくは無核果実を着果させた結果枝を作成し,それら結果枝と果実および付随する器官を用いて,花成関連遺伝子の発現解析を行った.花成を誘導するとされているフロリゲン遺伝子(FT)の発現について,カキとブドウでは葉や芽よりも果柄(穂軸)で強く発現していた.ブドウでは,有核果実を着果した穂軸に比べ,無核果実の穂軸でFTの発現レベルが高かった.一方,FTと拮抗する働きをするとされるアンチフロリゲン遺伝子(TFL1)の発現は,ブドウの結果枝の芽において強く発現しており,有核果実着果枝の芽の方が,無核果実着果枝に比べてその発現レベルは高かった.着果果実と結果枝の芽(翌年の花芽)の発達の関係を考えるうえで,果実中の種子の有無と連動して,FTが強く発現している果柄から果実および芽にそれぞれ生理的シグナルが伝達されている可能性が考えられる.隔年結果現象の樹体内シグナルとして古くから指摘されているジベレリンに着目し,その合成および受容に関わる遺伝子の発現解析を行った.その結果, ジベレリン合成に関わるGA20ox遺伝子の発現は,ブドウの結果枝および結果枝の芽において,無核果実着果枝に比べて有核果実着果枝の方で発現レベルが高く,TFL1の発現パターンと類似していた.また,ジベレリン受容体であるGID1遺伝子の発現については,ブドウの結果枝および結果枝の芽では,無核果実着果枝の方で発現レベルが高く,それとは逆に,穂軸および果実の果肉では,有核果実着果枝でその発現レベルが高かった.果実中の種子の有無の違いによって,果実および結果枝でのジベレリンおよび花成関連遺伝子の発現パターンに違いが見られていることから,果実着果と花芽形成が関係する樹体内生理について,遺伝子発現の側面から新知見が得られたものと考える.
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