研究概要 |
高等植物が持つ独自の生殖機構‘重複受精'には未だに解明されていない現象が数多く存在する。植物材料として用いるキルタンサスでは、花粉管伸長過程で一組の精細胞が異型化しその異型化には微小管が関与することが明らかとなった。本研究では雄性配偶子の花粉管内での挙動を更に詳細に解析している。本年度は新たな研究ツールとして、DNA二本鎖切断を高頻度に誘導する重イオンビームをキルタンサス成熟花粉に照射し、花粉管伸長時における雄性配偶子の挙動を調査した。炭素イオンビーム照射花粉では、発芽遅延,発芽率の低下が見られない照射線量においても精細胞形成率が低下することを発見した。この精細胞形成の低下の原因を明らかにするため、雄原細胞の細胞周期の調査に加え、DNA2本鎖切断が生じた際に誘導されるリン酸化ヒストンH2AX(_YH2AX)の検出系を構築し雄性配偶子のDNA損傷応答を調査した。重イオンビーム照射による精細胞形成率の低下は修復されずに残存したDNA2本鎖切断によって分裂の遅延が起きていることが明らかとなり、細胞周期を監視するチェックポイント機構が関与することが示唆された。次世代に正確な遺伝情報を伝達するためには雄性配偶子におけるDNA損傷修復機構が必要と考えられるがその詳細は不明である。本研究成果により花粉管伸長過程の雄性配偶子におけるDNA損傷応答機構の一端が初めて明らかとなった。また、重イオンビーム照射後に形成される精細胞および分裂が遅延した雄原細胞では、一部が異常な形態を示す。この現象を更に精査することにより、異型精細胞形成研究への新たな展開が期待される。
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