本研究では、植物病原菌と拮抗して植物を保護するグラム陰性細菌、Pseudomonas fluorescensの拮抗性に関わる抗菌性物質などのバイオコントロール因子の発現制御機構を解明することを目的としている。バイオコントロール因子の産生はリプレッサーおよびそれに結合するsmall RNAによって菌密度依存的に調節されており、高密度下になって初めて発現するが、その誘因となる細胞内シグナル物質は明らかになっていない。 平成22年度は、P.fluorescensの菌体内においてバイオコントロール因子の発現に関与するシグナル物質の探索を行うため、野生株と比較しバイオコントロール能に差異の生じる変異株を用い、菌体内の代謝産物を比較するメタボローム解析を行った。なお、年度の前半は、解析に供するサンプル準備のための培養条件の検討を行い、有効な条件を決定することができた。メタボローム解析では、約200の代謝産物について同定、比較がなされた。一連のシグナル伝達系の上流にて正の制御を行っているGacA(Global activator)を欠損させた変異株ではバイオコントロール能が失われるが、メタボローム解析の結果、野生株と比較し代謝のパターンが著しく異なることが示唆された。また、バイオコントロール能の亢進するRetS(Regulation of exopolysaccharides and type III secretion)変異株およびFumA(Fumarase)変異株では、欠損させた遺伝子の機能は全く異なるものの、代謝パターンが類似しており、表現型との相関が示唆された。各変異株特異的に検出された物質はシグナル物質として機能する可能性があり、本実施計画がスクリーニングとして有効であったと考えられる。これらは、今後投稿予定の原著論文の基礎データとなる重要な知見であった。
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