本研究では、植物病原菌と拮抗して植物を保護するグラム陰性細菌、Pseudomonas fluorescensの拮抗性に関わる抗菌性物質などのバイオコントロール因子の発現制御機構を解明することを目的としている。バイオコントロール因子の産生はリプレッサーおよびそれに結合する調節型small RNAによって菌密度依存的に調節されており、高密度下になって初めて発現するが、その誘因となる細胞内シグナル物質は明らかになっていない。 平成23年度は、前年度行ったメタボローム解析の結果に基づき、P.fluorescensの拮抗性に関与することが予測される細胞内シグナル物質の候補のうち、グアノシン4リン酸(ppGpp)にターゲットを絞り詳細な解析を行った。ppGppは細菌が飢餓状態に陥った際に警告物質(alarmone)として機能することが知られているが、近年、病原細菌の病原性等様々な表現型にも関与することが報告されており、P.fluorescensの拮抗性における関与について興味がもたれた。そこで本細菌のppGpp合成酵素遺伝子relAの欠損変異株、合成/分解酵素遺伝子spoTの欠損変異株、およびそれらの二重欠損変異株を作出し、HPLCにより菌体内のppGpp蓄積量を定量するともに、各変異株の抗菌性等について野生株と比較した。relA/spoT二重変異株ではppGppの蓄積がみられず、かつ、small RNAの発現量およびバイオコントロール因子の発現量が低下していたことから、ppGppが本細菌のsmall RNAを介しバイオコントロール能を正に制御している可能性が示唆された。さらに、病原微生物とキュウリを用い実際の植物保護能力についても検定したところ、relA/spoT二重変異株では野生株と比較し保護能力が低下していた。これらは、現在投稿中の原著論文の中心データとなる重要な知見であった。
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