熱帯起源の侵入害虫による農作物等への被害が、南西諸島のみならず本島でも最近大きな問題となっている。この分布拡大の大きな要因は地球温暖化であろう。しかし、本島に侵入したこれらの害虫が今後北に分布を拡大するための最も大きな制限要因は冬季の低温と考えられる。そのため、今後熱帯起源の侵入害虫の分布拡大を予測するためには、その害虫の低温耐性の詳細を知ることが重要である。本研究では、熱帯起源であり凍結耐性を持たないオオタバコガを用いて、休眠および低温順化による細胞膜リン脂質の低温への適応、および羽化への発達に伴う細胞膜リン脂質の再構築の低温障害に及ぼす影響について明らかにする事を目的として以下の研究を実施した。 オオタバコガの休眠は、短日(10L14D)もしくは15℃以下の低温により誘導される。低温で誘導された休眠蛹(LT)は短日で誘導された休眠蛹(SD)よりも低温耐性が低く、0℃処理での半数生存日数も有意に短い。両者とも生存率が著しく低下する処理日数のときに羽化日数が短くなることから、両者の0℃処理における生存率の違いは、休眠深度の違いによる物であることが昨年の研究により示唆された。本年はリン脂質の構成比率が低温順化および低温処理によりどのように変化するかの詳細について調査した。その結果、LT、SDとも低温順化によりフォスファチジルエタノールアミン(PE)の比率が上昇し、反対にフォスファチジルコリン(PC)の比率が減少した。LT、SDともにPEの不飽和度は低温順化により高くなったが、SDのほうがLTよりも不飽和度が高かった。PCの不飽和度では有意な変化は認められなかった。また、0℃処理では両者とも休眠が打破されたと考えられる日数後に、リン脂質の組成が低温順化前の比率に近い状態に変化することが示された。これは、羽化への発育に伴う組織の再構築によるものであると考えられた。
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