ヒメトビウンカの共生細菌にはウォルバキアとスピロプラズマが発見されているが、スピロプラズマが幼虫期における“オス殺し”を行い、個体群の性比をメスに偏らせていることを明らかにした。メスに著しく偏った性比の個体群を発見した台東縣(台湾)から、メスのみを生産するメスバイヤス(FB)系統を確立した。このFB系統のメスに、台湾各地の個体群のオスを交配させると次世代はほぼ全てメスとなる。一方、日本個体群のオスとの交雑では、組み合わせによってはオスが生産されることを発見した。共生細菌によるオス殺しを無効化するオス(無効化オス)の発見は、これまでにキイロショウジョウバエで知られているのみであり、野外個体群での実態はほとんど知られていない。 日本における分布を明らかにするため、宮城、栃木、静岡、岐阜、和歌山、愛媛、新潟、鳥取、山口、熊本、佐賀、沖縄県から採集したオスと、FB系統のメスを1組ずつ交雑させ(50組/個体群)、各組の次世代の性比を調査したところ、東日本と太平洋側(宮城、栃木、静岡、和歌山)では、多くの組み合わせでオスが生産され、スピロプラズマによるオス殺しが無効化されていた。オスを生産した組み合わせの割合を算出したところ、東日本と太平洋側の個体群では、0.80±0.08(平均±S.D.)となり、多数を占めていた。一方、日本海側や西日本(新潟、岐阜、鳥取、山口、愛媛、熊本、佐賀、沖縄県)のオスとの交雑ではオスを生産した組み合わせの割合は、0.15±0.13となり、ごく少数であった。台湾個体群や中国江蘇省の個体群のオスとFB系統のメスとの交雑では、全ての組み合わせで次世代はほぼ全てメスとなった。これらの結果から、日本個体群にはスピロプラズマによるオス殺しを無効化するオスが存在し、太平洋側や東日本に多く分布し、反対に日本海側や西日本では、中国や台湾と類似した傾向にあることが示された。
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