多くの農業害虫はその体内に共生細菌を保持しており、緊密な相互作用を行っている。これら共生細菌は、食物(木質)の分解や栄養補償を行うなど、宿主の栄養代謝において極めて重要な役割を果たしている。これら共生細菌を制御することで食害の低減や害虫の成長・繁殖抑制を図りうると考えられるが、その研究はほとんどなされていない。本研究では、ホソヘリカメムシとそのBurkholderia共生細菌をモデル系として、昆虫-共生細菌間に見られる緊密な相互作用の遺伝的基盤を明らかにし、新たな害虫制御法の開発に資することを目的としている。研究最終年にあたる本年度は、トランスポゾン挿入変異株のスクリーニングにより得られた13株の運動変異株につて、(1)軟寒天培地中および液体培地中における運動性の観察、(2)鞭毛形態の電子顕微鏡による観察、(3)Tn挿入部位のinverse PCRによる同定、(4)ホソヘリカメムシへの感染能力の調査を行った。(1)については、13株全てが軟寒天培地中で運動不全を示したが、英来たい培地中では4株が運動性を示した。(2)については(1)で運動性を示した4株では鞭毛の形成が観察されたが、液体中でも非運動性だった菌株のほとんどは鞭毛を欠いていた。(3)の調査では、1株を除いた12株全てにおいて運動性に関わる遺伝子のいずれかにTnが挿入されていることが明らかとなった。(4)では、液体培地中で運動性を示した4株以外はほとんど共生器官に感染することができないことが明らかとなり、共生細菌の鞭毛運動性がホソヘリカメムシ共生器官への定着に必須であることが明らかとなった。これらの結果については国内外の学会において発表を行った。
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