本年度はまず、三要素試験圃場(完全区、-N区、-P区、-K区、-NPK区)にてコムギ、トウモロコシ、ダイズ、ヒマワリの4作物種を栽培し、生育応答とイオノームプロファイルの変動を測定した。葉の分析結果では、欠乏させた三要素以外のほとんどの元素(必須・非必須の両方)の含有率が変動した。変動の傾向は欠乏させた三要素により大きく異なり、作物種による変動の違いも認められた。N欠乏下では、コムギとヒマワリの葉におけるMo含有率が大きく上昇したのに対し、ダイズでは逆に減少した。Moは生物的窒素固定におけるニトロゲナーゼの構成要素であるため、窒素固定微生物との関わり方の違いが影響していることが予想される。Moが実際、各種作物の微生物を介したN獲得に寄与しているかどうかを明らかにするため、圃場試験とは別にポットを用いた窒素制限とモリブデンの関係を調査する試験を行った。一方、P欠乏下のヒマワリでは重金属吸収が高まった。これはP欠乏により根からの分泌が誘導された、有機酸などP可溶化物質が根圏における重金属の可給度を高めたためと推定される。K欠乏は全ての作物種で様々な陽イオン元素の吸収を高めた。K吸収低下に体内でのチャージバランスを維持するため、他の陽イオン吸収を高めたのかもしれない。 本研究は施肥法による植物の元素集積制御の可能性を示し、重金属や放射性元素(セシウム、ストロンチウム)などの有害元素で汚染された土壌のファイトレメディエーション効率化や、逆に作物の有害元素蓄積量低減化への応用が期待される。
|