昨年度の三要素圃場試験で各種植物を栽培しその分析を行った結果から、植物の元素集積プロファイルは養分欠乏の影響を大きく受け、その変動は欠乏するそれぞれの三要素に特異的なものであることが明らかとなった。その中でもN欠乏下での含有率上昇が著しかったモリブデンと、福島第一原発事故の問題への対応のためのセシウムを中心に解析を行った。 まずコムギを用いて、圃場試験と同様の-N、-P、-K、-S、-NPKの処理を施した培養液に毒性濃度以下の各種非必須微量元素を添加し、水耕実験を行った。その結果、-K処理については圃場と同様にセシウムを含む多くの元素で葉における含有率の上昇が認められた。一方.圃場で窒素欠乏条件下で葉における含有率が大きく上昇したモリブデンでは、水耕条件では含有率の上昇は全く認められなかった。ポット実験(土耕)により窒素欠乏のモリブデン吸収に及ぼす影響を調べたところ、圃場条件と同様の結果が得られた。土壌溶液中のモリブデン濃度が窒素欠乏下で高まったわけではないため、圃場・土耕栽培条件下でのモリブデン含有率の上昇には根圏土壌あるいは体内(内生)の窒素固定微生物か関わっていることも考えられ、今後さらに研究を進める必要がある。 昨年度の研究で植物のセシウム含有率がカリウム欠乏土壌では上昇し、窒素欠乏土壌では低下することを示した。今年度は放射性セシウム汚染土壌のファイトレメディエーションの効率化を目的として、セシウム吸収能が高い植物種を圃場で栽培し、N施肥とK施肥の影響を調べた。しかし、圃場の場合、KおよびNはこれまでに十分施与されているため、処理の有意な効果は認められなかった。特にKについては圃場中に多量に存在するため施肥によるK吸収の制御は困難であると考えられた。 Alストレスがイネのイオノーム変動品種間差に及ぼす影響についても調査したが、特筆すべき影響は認められなかった。
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