本研究では、世界的に農作物に甚大な被害を与えているネコブセンチュウの感染機構を分子レベルで解明することを目的とする。植物の根に'permanent feeding site'を形成する菌根菌や根粒菌の共生メカニズムとの相似性に着眼し、共生シグナル経路の鍵遺伝子や関連する植物ホルモンエチレンと、ネコブセンチュウ感染との関係を明らかにする。 平成22年度において、下記の通り研究成果を得た。 I)エチレン非感受性トマトのネコブセンチュウ感染性の解析 マイクロトムのエチレン受容体変異2系統を用いて、感染実験を行った。両系統は異なる変異アリルを有し、エチレン感受性のレベルが異なる。感染実験の結果、エチレン受容体変異系統では野生型と比較して卵塊形成数が著しく減少し、その度合いは感受性レベルに依存することが示された。 II)共生シグナル経路鍵遺伝子の発現抑制系統を用いた感染性の解析 毛状根RNAi法により共生シグナル経路の遺伝子の発現抑制系統を作出し、ネコブセンチュウ感染実験を行った。その結果、2系統で空ベクター形質転換コントロールと比較してゴール形成数が有意に減少する結果を得た。 以上の結果から、ネコブセンチュウ感染にはエチレンシグナル伝達経路が必要であること、また共生システムを何らかの形で利用している可能性があることが示唆された。これらは新しい知見であり、今後感染機構を理解し、農業に役立つ安全で持続的な抵抗性を獲得することに貢献できる。
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