反芻動物ルーメン(第一胃)の主要共生細菌で、偏性嫌気性のグラム陰性菌Selenomonas ruminantiumは、細胞壁に必須構成成分としてポリアミンを共有結合している。本菌のポリアミン生合成に必須なリジン/オルニチン脱炭酸酵素(LDC/ODC)は、「原核生物には存在しない」とされていたアンチザイム様調節因子が関与する厳密な分解制御を受け、その本体としてリボソーム蛋白質L10が作動する。本研究では生物で初めて見出された、リボソーム構成蛋白質が分解促進因子として機能する分解制御機構の全容を、L10およびプロテアーゼの特性と構造、並びに分解複合体における各因子の相互作用と構造変化に焦点を合わせて解明することを目的としており、当該年度において以下の成果を得た。 本分解制御機構に関わるプロテアーゼについては、細胞質内に存在するATP依存性セリンプロテアーゼであることが明らかにされていたが、非常に失活しやすい性質から精製には成功していなかった。そこで、S. ruminantiumの全ゲノム配列[東北学院大学・神尾好是教授(当時)、東北大学・金子淳准教授、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)により2009年に決定]を参考にして本プロテアーゼの候補遺伝子を3つに絞り込み、これらの中でも特に、真核生物ODCの分解に関わるプロテアソームの原型ともされるClpP型プロテアーゼに着目した。本遺伝子(clpP)、およびClpP型プロテアーゼによる蛋白質分解活性の発現に必要とされるATP結合サブユニット相当遺伝子(clpX)をクローニングし、大腸菌での大量発現系を構築した。大量発現を確認できた約24kDaのClpP組換え蛋白質を、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過クロマトグラフィーにより精製し、SDS-PAGEで単一バンドとなる精製標品1.6mgを得た。本精製標品のペプチダーゼ活性を蛍光基質を用いて評価した結果、本活性を有することが確認でき、比活性は0.685 pmol/h・μg of proteinと求められた。
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