リポ蛋白質は細胞質で前駆体として合成され、Sec膜透過装置の作用で内膜を透過した後、内膜に存在する3つの酵素(Lgt、LspA、Lnt)の作用で成熟体となる。Lntはリポ蛋白質のアミノ末端システインのアミノ基にアシル鎖を付加する反応を触媒する。Lntは大腸菌の生育に必須であるが、主要外膜リポ蛋白質Lppを欠損する大腸菌変異株においてLolCDEを過剰発現したところ、lnt遺伝子を欠失する大腸菌(Δlnt株)を構築することができた。この株で発現させたリポ蛋白質は分子量が小さく、エドマン分解によるアミノ酸配列の分析が可能であったことから、アポリポ蛋白質と確認された。Δlnt株の膜画分をショ糖密度勾配遠心法によって内膜と外膜を分画し、イムノブロッティングにより検出したところ、アポリポ蛋白質は正常に外膜に局在していたが、一過的に過剰発現させたapoLppは大部分が内膜に蓄積した。Δlnt株をスフェロプラスト化した後にリポ蛋白質を合成させ、LolAに依存して培地中に遊離するリポ蛋白質を検出したところ、アポリポ蛋白質の内膜からの遊離効率は著しく低下していた。大腸菌の内膜を調製しATP非存在下でLolCDEを膜から可溶化し精製すると、輸送途中のリポ蛋白質を結合したLolCDEが得られることが知られるが、アポリポ蛋白質を結合したLolCDEは検出されなかった。ことのことからLolCDEのアポリポ蛋白質に対する親和性は低いことがわかった。以上の結果から、グラム陰性細菌のリポ蛋白質はLntによるアミノ末端のアシル化を受けることでLolCDEに対する親和性が格段に高くなり、効率よく外膜に輸送されるようになると考えられる。
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