イネごま葉枯病菌をモデルとして、植物病原糸状菌が光環境を認識するための光センシングに関わる光受容体と光反応の多様性を明らかにすることを目的として研究を行った。 イネごま葉枯病菌を用いて、近紫外線照射により発現が増加する遺伝子のスクリーニングを行ない、50以上の新規な光応答性遺伝子の存在を明らかにした。一方、アグロバクテリウムを用いた形質転換系について検討を行ったが、イネいもち病菌では、多くの形質転換体を得たのに対して、イネごま葉枯病菌では、アグロバクテリウムを用いた形質転換体はまったく得られなかった。このことは、糸状菌の種類によって、形質転換系の効率が異なることを示しており、更なる検討が必要と考えられる。 次に、発光ダイオード(LED)を用いた光応答の解析系を確立し、植物病原糸状菌における菌叢生育・胞子形成・色素形成等の形態的特徴について調査するとともに、光応答性遺伝子の発現解析を行なった。特筆すべき点として、各種植物病原糸状菌における光応答を、メラニン合成系遺伝子を指標にして解析した結果、イネごま葉枯病菌だけでなく、イネいもち病菌、キュウリ褐斑病菌、キュウリ炭そ病菌のいずれの植物病原糸状菌においても、メラニン合成系遺伝子の発現が、近紫外線によって増加することを確認したことから、紫外線受容体及び紫外線による光形態形成は、植物病原糸状菌に幅広く存在することが示唆された。 植物病原糸状菌が光環境を認識するための光センシングに関わる光受容体と光反応の多様性を解析することにより、植物病原糸状菌における光応答の共通点と相違点が明らかになり、このことが、将来的に、光を利用した「植物病原糸状菌」側からの新しい植物保護技術の開発につながることが期待される。
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