生物進化の過程を研究する際に非常に多くの情報を提供してくれるのがゲノムである。細胞内共生進化の研究においても、共生体と宿主のゲノムを解析する事で数多くの事が判る可能性がある。近年、昆虫や原生動物を含む、いくつかの細胞内共生体の全ゲノム解析結果が報告され、共生に寄与する特定の機能性遺伝子が保存されている一方で、それ以外の遺伝子の偽遺伝子化や欠失、著しいゲノムの縮退(サイズ減少)等が確認されている。共生体のゲノム構造を明らかにする事は、共生における進化過程を理解する上で重要である。本年度は、トリミエマ原虫の共生体(TC1)について、ゲノム解析に供するDNAの調整を検討した。具体的には、二日間絶食を行ったトリミエマ原虫をマイクロマニピュレーターで分取し、凍結融解を行って核を破壊したのちに洗浄、集菌を行って共生体の画分を得た。この画分をアルカリ処理して細胞を破砕し、得られたゲノムDNAをPhi29 DNA polymeraseによって増幅してギガシーケンサー(Roche GS FLX、illumina GAII)によるシーケンスを実施した。その結果、2800本あまりのcontigを得る事が出来た。最大長のcontigは85kbであった。しかしながら、TC1の16-23SリボソーマルRNA遺伝子はcontig上に1カ所見出されたものの、得られたcontigの半数は宿主トリミエマ由来と思われる配列が含まれていた。また、バクテリア由来であると考えられた配列もTC1から系統的に離れた微生物種の遺伝子に類似しており、どのような解析手法をとるにしても、解析に供する増幅ゲノムの純度を高める必要があると考えられた。
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