乳酸菌は糖源を資化して乳酸を産生する菌の総称であり、人間や動物の腸管をはじめとして自然界に広く分布する。申請者は、乳酸菌と酸素との関係に注目し、新たな乳酸菌の培養・育種法の開発、宿主内における適応機構の解明を目指してきた。本研究課題では、特に「乳酸菌の酸素分子認識機構」に焦点を絞り、申請者が同定した制御因子であるSpxの制御メカニズムについて解析を行うことで、乳酸菌の酸素応答機構に関する基礎的知見を得ることを目的とした。 本研究で対象としたSpxは、枯草菌で潜在的なレドックスセンサーとして報告されているRNAポリメラーゼ結合蛋白質で、ポリメラーゼの転写特性を変化させることでグローバルに転写を制御すると報告されている。申請者はこれまでに乳酸菌の一種、口腔内連鎖球菌の酸素応答に関与する制御因子としてSpxAおよびSpxB両蛋白質を同定している。昨年度は表面プラズモン共鳴法を用いて、両Spx蛋白質とRNA polymerase α-subunitの相互作用を解析し、酸化型のSpxがより強くα-subunitに結合することを明らかとした。本年度は、Spx分子内のシステイン残基を酸化する因子について解析を行い、過酸化水素を潜在的なシグナル分子として同定した。また、生体内におけるSpx分子の分解系について検討を行い、SpxBの分解が枯草菌同様ClpXPプロテアーゼに依存していること、一方、SpxAはClpXPプロテアーゼによる分解を受けず、その細胞内濃度が酸素の有無に関わらず一定であることを明らかとした。
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