医療の高度化に伴って、深在性真菌症が問題となっている。その中でも侵襲性アスペルギルス症は致死率50%を越えるため、新しい治療法の開発が渇望されている。本研究ではアスペルギルス症の主要原因菌Aspergillus fumigatusのプロテインキナーゼの解析を通じて細胞周期と菌糸成長速度との関係を解明することを目的とする。平成22年度は、Polo-likeキナーゼ、Auroraキナーゼ、MPS1キナーゼ、Kin4キナーゼの4種類のプロテインキナーゼを対象として、A.fumigatusの遺伝子組換え体の作製を中心に、各プロテインキナーゼの機能と菌糸生育との関係を探った。 まず、キナーゼ特異的阻害剤として、市販のAuroraキナーゼ阻害剤2種類およびMPS1キナーゼ阻害剤1種類はA.fumigatusの生育には影響なかった。キナーゼ阻害剤の特異性がヒトとA.fumigatusとの間で異なることが予想される。次に、上記4種類7遺伝子の遺伝子破壊株を作製した。ハイグロマイシン耐性遺伝子をキナーゼ遺伝子と相同組換えにより置換した。Auroraキナーゼ1(Auk1)および2(Auk2)、MPS1キナーゼの遺伝子破壊株が数度の試行でも取得できなかったことから、これらは生育に必須であることが予想される。この3遺伝子が必須かどうかを確認するために、キナーゼ遺伝子発現をNiiAプロモーターの制御下に置いた。NiiAプロモーターはアンモニウム塩存在下で転写が抑制されることが知られている。必須と考えられるAuk1、MPS1キナーゼの遺伝子発現抑制株を作製したところ、Auk1およびMPS1キナーゼを抑制した場合に生育が顕著に抑制された。 以上の結果および今後の発展により、アスペルギルス症の新しい治療戦略の基礎を構築するのに貢献でき、基礎生物学的にもユニークな細胞周期の制御メカニズムという新しい知見を与えることが期待される。
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