医療の高度化に伴って、深在性真菌症が問題となっている。その中でも侵襲性アスペルギルス症は致死率50%を越えるため、新しい治療法の開発が渇望されている。本研究ではアスペルギルス症の主要原因菌Aspergillus fumigatusのプロテインキナーゼの解析を通じて細胞周期と菌糸成長速度との関係を解明することを目的とする。平成23年度は、平成22年度に必須であると予想されたMps1キナーゼに焦点を当てて研究を行った。 キナーゼ特異的阻害剤として、ヒトのMps1キナーゼ阻害剤であるAZ3146ではA.fumigatusの生育を阻害しなかったが、真菌のMps1キナーゼ阻害剤であるLY83583によって生育阻害が観察された。この結果より、ヒトと真菌のMpslの阻害様式が異なることが示唆された。次に、MPS1のアナログ感受性変異株を作製し、膜透過性ATPアナログ阻害剤(1NM-PP1)を用いて、A.fumrgatusのMPS1キナーゼのリン酸化活性を特異的に阻害する系を構築した。578番目のメチオニンをグリシンに置換したMPS1遺伝子およびハイグロマイシン耐性遺伝子を形質転換し、相同組換えにより染色体上のMPS1遺伝子にアナログ感受性変異を導入した。変異株にINM-PP1を作用させたところ、分生子の膨潤は阻害しなかったが、分生子からの出芽および菌糸成長が顕著に抑制された。DAPI染色により核の挙動を観察したところ、MPS1キナーゼ活性の阻害により染色体分裂が正常に行われず、巨大な核やちぎれた核が観察された。以上の結果から、MPS1キナーゼは正常な核の分裂を制御し、分生子からの出芽と菌糸成長に重要な役割を担っていることが示された。 以上の結果および今後の発展により、アスペルギルス症の新しい治療戦略の基礎を構築するのに貢献でき、基礎生物学的にもユニークな細胞周期の制御メカニズムという新しい知見を与えることが期待される。
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