木材パルプ製造の8割を占めるクラフトパルフの製造過程で副生する有機性廃液「黒液」は、燃焼されバイオエネルギーとして利用されているが、パルプ製造時に必要なエネルギー量よりも多いため、余剰黒液の有効利用法の開発が求められている。本研究では、微生物が持つ有機硫黄化合物の代謝能を上手く活用し、余剰バイオマスト考えられる黒液中の主成分であるジメチルスルフィド等から有用物質(含硫アミノ酸)を生産することでバイオマス有効利用技術の開発および新規バイオリファイナリー技術の構築を目的とする。黒液中には、糖やリグニン由来の芳香族、有機硫黄化合物等が含まれるが、そのうちジメチルスルフィド(DMS)は、1950年代に濃縮黒液から工業生産が行われたほど含有量が高い。黒液中の芳香族化合物や糖などを微生物増殖のための炭素源とし、同じく黒液の主要成分であるDMSを硫黄源として、細菌が有する硫黄代謝に関与する酵素遺伝子群(硫酸飢餓応答遺伝子と呼ばれる1種のストレス応答遺伝子群)を効率よく発現させることにより、効率的な「廃棄物系バイオマスを原料とした含硫アミノ酸の生産」を行うことを目的とする。平成22年度は、P.putidaのメチオニン生合成系を強化するため、遺伝子破壊技術を用いて作製した、システイン合成の主流代謝酵素遺伝子であるcysK、トレオニン生合成のthrB破壊株および二重破壊株を作製した。遺伝子破壊の方法はdouble cross overによる相同組換えを基本とし、薬剤耐性をコードする遺伝子カセットを利用して行なう。特に、P.putidaはthrBに関してホモログすべき点として、P.putidaはthrBに関してホモログ遺伝子を二つ有している(PP0121をよびPP4154)ため両方それぞれの破壊株を作製し、どちらの遺伝子を破壊した方が、ホモセリンがよりメチオニン側に流れるか代謝フラックスを評価しながら実験を進めた。
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