研究課題
本研究の目的は真核生物が小胞体に有するα-グルコシダーゼIIならびに生物全般に分布するα-グルコシダーゼII類縁酵素の構造と機能の相関を明らかとすることである。同一祖先から進化していると推定されるα-グルコシダーゼが分子進化の過程で機能、とくに基質特異性がどのように変化しているのかを明らかにすることである。S.pombe α-グルコシダーゼIIを大腸菌もしくはPichia pastorisを用い異宿主生産した。P.pastorisを用いた場合には活性のあるタンパク質を得ることができなかった。大腸菌を用いた場合には、ほとんどが不溶性画分として生産された。培養条件を検討することで、可溶性画分の収量を上げることに成功した。しかし、生産された組み換えタンパク質は不安定であり精製後数日でほぼ活性を失うことが解った。保存条件を検討し、10%グリセロール存在下で数ヶ月間安定して保存できることがわかった。膜タンパク質ではグリセロール存在下での保存が有効であることが示されているが、膜タンパク質ではないタンパク質の場合にもグリセロールが保存に有効であることが解った。本酵素は新生糖鎖のα-1,3-グルコシドに作用する役割を担うが、in vitroではα-1,4結合にも作用することを明らかとした。各種生物に分布する類縁酵素の解析では、植物種子に局在する重合度の大きい基質に特異性をもつα-グルコシダーゼの立体構造解析に成功した。他の酵素と比べて大きな構造的相違はないが、活性中心の外側を覆うループ構造が特異性に関与していることを明らかとした。またある酵母のα-グルコシダーゼの活性ポケットに位置するTrp残基をTyrに置換することで基質特異性、生成物特異性が変化することを明らかとした。一方、α-1,4グルコシド結合よりα-1,3結合に特異性を示す細菌由来の新しいα-グルコシダーゼを発見した。違った細菌には、既報の活性とは異なる活性を有する可能性のあるホモログタンパク質を発見した。本研究の結果から対象とした類縁酵素ファミリーは元来α-1,3結合に特異性を示す同一祖先が分子進化により様々な特異性を獲得していることが示唆された。また類縁酵素内には新規機能を持つタンパク質がまだまだ埋もれていることが示唆された。
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