植物個体における色素体の発生的起源は、多くの場合、分裂組織の未分化なプロプラスチドである。光合成組織の葉緑体の分裂増殖機構に関しては、過去20年間精力的な研究が展開されてきたが、プロプラスチドに関してはほとんど解析が進められてこなかった。本研究は、シロイヌナズナ(Arebidopsis thaliana)の色素体分裂異常変異体リソースと蛍光タンパク質を用いた生体観察法を利用して、プロプラスチド増殖機構に関する知見を得ることを目的とする。 本年度は、昨年度出揃った色素体分裂異常変異体(arc5、arc6、arc11、atminE1の4種)と色素体ストロマ局在型CFP(cyan fluorescent protein)またはYFP(yellow fluorescent protein)発現系統との交配系統をF3種子まで増幅し、それらの色素体を生組織レベルでモニターするための撮影条件を設定した。葉緑体分裂に必須なARC6の変異体は保存的分裂因子FtsZのリング形成を阻害するが、arc6の分裂組織では一細胞中に複数のプロプラスチドが存在することが示された。このFtsZ非依存的プロプラスチド複製をさらに確かなものとするために、ftsZ変異体におけるプロプラスチドの可視化を試みた。当初、既存のストロマCFP/YFP発現系統とftsZ変異体との交配を進めたが、蛍光タンパク質を発現しかつftsZホモ接合型のF2植物を得ることができなかった。そこで次に、アグロバクテリウム法を用いてストロマ局在型YFPを発現するT-DNAコンストラクトをftsZ変異体に導入した。その結果、数世代安定にストロマYFPレベルを維持するftsZ変異系統を複数得ることができた。現在、この系統を用いて、プロプラスチドの形態・複製状況のモニターを試みている。
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