カーボンナノチューブ(CNT)の生化学応用を考える上で、その水溶液中への分散は避けることの出来ない問題である。我々は既にCNTを安定に水溶液中に分散させることの出来るペプチドを設計し、その有効性を確認しており、本研究ではそのペプチドの微生物生産に取り組んだ。GFPをコードする遺伝子の下流にFacterXa認識配列(Ile-Glu-Gly-Arg)をコードした遺伝子配列を挿入し、さらにその下流にAla-Asp-Phe-Serの4アミノ酸を8回繰り返すペプチド配列((ADFS)_8)をコードした遺伝子を連結した。これをプラスミドベクターpCold Iに組み込み、大腸菌Rosetta2 (DE3)株にて発現させた。発現された(DFSA)_8ペプチド融合GFPは、疎水性クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。収量は培養液1 Lあたり1.9mgであり、収率は1.0%であった。精製されたCNT分散ペプチド融合GFPをFactorXaで処理することにより、3.O kDaの(DFSA)_8ペプチドが遊離されることをSDS-PAGEにて確認した。これによりCNT分散ペプチドの微生物生産系が確立された。 次に、CNT/ペプチド複合体に対する酵素の固定化に取り組んだ。仔ウシ小腸由来アルカリホスファターゼ(CIAP)のN末端アミノ基に二価性架橋剤を用いてマレイミド基を導入した。このマレイミド修飾CIAPを、システインを配列中に含むペプチドを用いて調製したCNT/ペプチド複合体と混合し、その表面に露出したSH基にコンジュゲートさせた。p-ニトロフェニルリン酸を基質としてそのCIAP活性を評価したところ、CNT/ペプチド複合体に固定化されていないCIAPと比べて39%の活性低下が見られた。今後、CNTとの複合体化が酵素に与える影響について、さらに詳細に検討したい。
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