ヒストンの化学修飾はクロマチン構造を変化させる要因の一つであり、有糸分裂期において遺伝子の転写や複製など重要な役割を果たしているが、減数分裂期における生理的意義については不明な点が多い。本研究では、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の機能に焦点を絞り、ヒトHDAC1ホモログである出芽酵母Rpd3の減数分裂・胞子形成過程に必須な役割とその調節機構について明らかにすることを目指す。rpd3欠損株では第一減数分裂の進行に必須なNDT80遺伝子の転写誘導が著しく遅延し、核分裂がほとんど起きないことが知られている。我々は、プロモーター置換によって減数分裂初期にNDT80を強制発現させたrpd3欠損株が二回の核分裂を起こすことができるが胞子形成不能であることを見出した。従って、Rpd3は減数分裂中期におけるNDT80の転写制御とそれ以降の胞子形成過程において重要な役割を果たし、複数の作用点で働くと考えられた。rpd3欠損株においてNDT80の転写誘導が遅延する原因を遺伝学的に解析した結果、この誘導遅延は減数分裂期組換えチェックポイント機構には依存しないこと、NDT80の転写抑制因子Sum1の欠損によって抑圧されることがわかった。従って、Rpd3は減数分裂中期にSum1の転写抑制能を解除することによってAの780の転写誘導を導く可能性が示唆された。さらに興味深いことに、rpd3欠損株は出芽酵母の減数分裂・胞子形成過程への分化誘導に必要な栄養源飢餓条件下において、生存率が野生株に比べて著しく低下することを見出した。現在、rpd3欠損株が示す胞子形成不能の表現型を抑圧する因子の探索を進めている。来年度は、この探索によって得られた因子とRpd3との機能関係を中心に解析を行い、Rpd3によるNDT80転写活性化機構の詳細ならびに胞子形成過程におけるRpd3の機能の実態について調査する。
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