昨年度の研究より、外部磁場の影響が示唆される菌株数種をスクリーニングしたが、そのうちの1株に関して磁場印加による代謝変化を詳細に調べた。培地の種類、温度、光など、異なる培養条件で磁場印加(300ミリテスラ)培養と地磁気下(対照群:70マイクロテスラ)培養の相違を比較した。また、磁場遮蔽シートを用いて地磁気下(対照群:70マイクロテスラ)より磁場の小さい(30マイクロテスラ)環境を作製し、遮蔽磁場についても比較を行った。 大学敷地内の土壌から集積培養によって単離した菌株NM2を数種の培地を用いて磁場印加有りと印加無し(地磁気下)でそれぞれ純粋培養し、濁度を測定することにより菌の増殖変化を比較した。磁場印可をせずに培養した地磁気下培養群と比較して、濁度の経時変化や菌体の凝集に関して相違が見られたが、この相違は培養条件、主に培地の違いによって異なった。また、磁場遮蔽条件下で培養を行った際も同様に、地磁気下培養群と比較して濁度の経時変化や菌体の凝集に関して相違が見られたが、この相違は培地の種類によって異なった。 濁度の経時変化と遺伝子発現量の相関を調べるため、細胞内あるいは分泌タンパク質の量を比較した。濁度の相違が顕著に現れた時点で菌体を回収し、細胞内あるいは分泌タンパク質の画分に分けてSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。電気泳動の結果、差異が示唆されたサンプルに関しては、さらに詳細な比較を行うため、二次元電気泳動に供した。画像解析により有為差を得るとともに、明確な差異が確認されたタンパク質に関しては続いてTOF-MS分析を行い、タンパク質の同定を試みた。菌株NM2は16S rRNA遺伝子を用いた系統解析によりBacillus thuringienesis近縁種であることがわかったため、今後はBacillus属のデータベースを用いて詳細な遺伝子解析を行っていく予定である。
|