大学敷地内の土壌から集積培養によって単離した数種の菌株を、磁場を人為的に印加した場合と通常の地磁気下とでそれぞれ純粋培養し、増殖量を比較した。その結果、いくつかの株で、対照群である地磁気下培養と比較して、磁場印加条件下での培養では増殖量や菌の凝集体が有意に増加することが分かった。rRNA遺伝子を用いた系統解析の結果、磁場印加により増殖が促進された菌株のうちの1つは Bacillus thuringienesis の近縁種であることがわかった。また、本菌において地磁気を遮蔽して培養を行った際も、地磁気下培養群と比較して増殖量に違いが見られた。 次に、磁場印加培養における本菌の遺伝子発現についての違いを調べるため、経時的に磁場印加下で培養した菌体を回収して細胞内タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、地磁気下で培養した菌体と比較した。その後、さらに詳細な比較を行うため、二次元電気泳動に供した。磁場印加条件下と通常の地磁気下で培養を行ったサンプルとの二次元電気泳動結果の比較において、生成量の差が大きかったいくつかのタンパク質のスポットに関してはTOF-MSによる質量分析を行った。得られた質量分析結果よりBLAST を用いて類似の遺伝子を検索し、目的遺伝子の全配列および周辺配列を含む領域を解析するためのプライマーを作成し、遺伝子解析を行った。その結果、解析された遺伝子のいくつかが共通の転写制御因子に制御されるプロモーター配列を有していることが分かった。転写制御因子と磁場の関連を解析することで、磁場が与える微生物への影響が明らかにされるとともに、本プロモーターを利用した遺伝子発現制御システムへの応用が期待される。
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