(最終年度の研究成果) 昆虫の摂食行動を制御する因子群を、平成22年度に引き続き探索した。また、平成22年度でカイコBombyx moriから同定した新規ペプチド群の発現解析も行った。その結果、カイコ幼虫の摂食行動関連因子として同定できたものの多くは、いわゆる脳腸ペプチドであることが分かった。一方、脳神経系で強く発現されている神経ペプチドのうち、アラトトロピンやshort neuropeptide F(sNPF)の受容体は、既に同定されているが、その転写発現量がカイコ幼虫の摂食状態により変動していることを見出した。これは、摂食行動がペプチドホルモンの分泌制御だけでなく、受容体側の転写制御によっても行われていることを示す重要な知見となった。 (研究期間全体の成果) 昆虫の中でも植食性昆虫は、概日リズムとは独立した摂食行動を示す。この変化から摂食モチベーションが体内で制御されていることは分かるが、その制御メカニズムは、これまで明らかにされていなかった。本申請課題では、主にカイコBombyxmoriを用いて、摂食モチベーションの変動が何に起因しているかを分子レベルで明らかにした。すなわち、およそ10種のペプチド性因子が摂食行動に関わることが明らかにした。これらは当いわゆる脳腸ペプチドであることが分かった。一方、その摂食行動関連因子群の受容体の発現レベルの変動も摂食状態により変動することや、因子群の脳神経系上での発現部位に偏りがあることから、摂食行動の中心的な制御部位が脳神経系の局所神経回路で構築されていることが予想させれ、そのネットワークの解析が今後の課題となる。
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