ナス科植物には炭素数27の骨格を有する6環性ステロイドサポニンが含まれている。これら化合物は植物の防御機構に関与すると考えられているが、防御応答に対するこれら含有量の増減や生合成の変化については明らかにされていない。申請者がシロイヌナズナから同定したラノステロール合成酵素遺伝子はメチルジャスモン酸(MJ)処理により発現量が増加することが明らかになっている。さらにシロイヌナズナにはシクロアルテノールを経由する経路とともにラノステロールを経由するステロール生合成経路が存在することを明らかにしている。本申請課題ではラノステロール合成酵素遺伝子が単離されているナス科植物トマトを用いて、2つのステロイド骨格生合成経路のフローを定量化することにより、外部からの刺激に対して植物が2つの経路をどのように使い分け変化させるか明らかにする。これにより、植物ステロイド生合成制御に関する新たな知見を加えるとともに、これら経路の人為的制御による効率的物質生産、抵抗性付与に繋げることが期待できる。 トマトの実生を浸透培養により育て、5μMのMJで処理しトマトに含まれるステロイドであるトマチンの内生量の変化を測定した。その結果、24時間には未処理のトマトに比べて2倍に増加し、7日後には4倍程度に増加することが明らかになった。さらに、MJを添加したトマト実生を用いて、[6-13CD3]メバロン酸のトレーサー実験を行い、トマチンの骨格部生合成について調べた。その結果、未処理のトマトではトマチンはシクロアルテノールを経由する経路が主経路であるのに対し、MJ処理したトマトではラノステロールを経由する経路がシクロアルテノール経路と比較して約3%にまで上昇することが明らかになった。
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