ナス科植物に含まれるステロイドサポニンは、防御物質と考えられているが、防御応答に対する含量の増減や生合成の変化は不明である。申請者がシロイヌナズナから同定したラノステロール合成酵素遺伝子(LAS)は、メチルジャスモン酸(MJ)処理により発現量が増加することが明らかになっている。さらにシロイヌナズナにはシクロアルテノールを経由する経路とともにラノステロールを経由するステロール生合成経路が存在することを明らかにしている。本課題ではLASが単離されているナス科トマトを用いて、2つのステロイド骨格生合成経路のフローを定量化し、外部からの刺激に対する2つの経路の変化を明らかにすることを目的とした。 トマトの実生を5μMのMJで処理し、トマトステロイド(トマチン)の内生量を調べた。未処理のトマトに比べて、3日後にはトマチン含量が4倍に増加した。一方、トマチン前駆体のコレステロールは12時間後に未処理のトマトを比較して1.5倍に増加し、24時間後以降、同程度に回復することがわかった。次に、MJ添加したトマト実生を用いて[6-^<13>CD_3]メバロン酸のトレーサー実験を行い、培養7日後のトマチンならびにコレステロールの骨格部生合成について調べた。その結果、未処理のトマトではトマチンはシクロアルテノール経路で主に生合成されるのに対し、MJ処理トマトではラノステロール経路がシクロアルテノール経路と比較して3%にまで上昇することがわかった。一方、コレステロールは未処理、MJ処理時共にシクロアルテノール経路で生合成されていることがわかった。これらの結果から、病傷害時にトマトが増産するトマチンは、細胞膜ステロールとして存在するコレステロールを前駆体として生合成されるのではなく、増産されるコレステロールは全てトマチンへと代謝されており、一次代謝物と二次代謝物が切り離されて生合成されることが示唆された。
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