研究概要 |
Pradimicin A(PRM-A)は,放線菌由来の抗生物質であり,Ca^<2+>存在下でD-マンノース(Man)を認識する.現在のところ,PRM-Aとその誘導体は,「Man認識能を有する唯一の低分子化合物群」であることから,PRM-A類のMan認識機構の解明は学術的に極めて重要なトピックとなっている.しかしながら,PRM-AがCa^<2+>およびManと複数の複合体を形成すること,かつPRM-Aは凝集性を有することから,溶液NMR解析やX線結晶構造解析など一般的な相互作用解析法を適用することができず,PRM-AとManの相互作用研究は全く進展していなかった. 本研究では,機器分析には不利とされている「凝集」という現象を逆に利用することにより,「固相中」でPRM-AとManとの相互作用を解析するという全く新しい解析戦略を実践した.具体的には,PRM-Aの凝集性を利用して,単一のPRM-A/Ca^<2+>/Man複合体を固体サンプルとして取り出し,その構造を固体NMRで解析するというものである.本解析戦略によって,PRM-Aとその人工誘導体であるBMY-28864がCa^<2+>を介してManと結合していることを明らかにするとともに,Man結合部位を特定することに初めて成功した.さらに,PRM-AのMan認識機構が,超分子化学の研究領域において開発が進められている人工糖レセプターの設計コンセプトと一致していることを見いだした. 本研究によって得られた成果は,PRM-A類のMan認識機構を完全解明する上でのブレークスルーとなるとともに,人工Manレセプターを設計する上で重要な基盤を与えることが期待される.
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