ヒト皮膚は太陽光や光化学オキシダントなどの大気環境刺激に常に曝されている。皮膚表面の脂質(表皮脂質)が大気環境の影響をもっとも受けやすいと予想され、先に我々は、生活環境下の太陽光暴露による表皮脂質の過酸化(スクアレンヒドロペルオキシドの生成)を証明した。この知見を基に「大気環境刺激による皮膚脂質の酸化修飾とその制御のための食品応用」と題して、"大気環境による皮膚脂質の修飾機構とその影響(皮膚炎症・老化)の化学的特性の理解"、"食品の新しい機能(皮膚疾病予防)の発見"、これらに関する下記課題の解決を目指して、研究を実施した。 (1)大気環境の影響による表皮脂質の酸化修飾・構造変化の機構解明では、表皮脂質の酸化修飾産物の探索を行い、下記の細胞実験の成果も踏まえて、ヒト表皮脂質の過酸化においてはスクアレンの過酸化によるスクアレンヒドロペルオキシドの生成が重要であることをあらためて確認した。 (2)皮膚脂質の構造修飾が皮膚細胞機能に与える影響の評価では、表皮脂質の酸化修飾物(スクアレンヒドロペルオキシドや他の酸化物)の生理作用を細胞実験で評価した。実験にはヒト表皮角化細胞(HaCaT)や3次元培養ヒト皮膚モデル(Vitroife-Skin)を用い、ニュートリゲノミクス的手法などで解析した。その結果、スクアレンモノヒドロペルオキシドによる顕著な皮膚炎症惹起作用を明らかにすることができた。 (3)皮膚炎症・老化の予防に向けた皮膚脂質の構造修飾を抑制できる食品成分の同定と効能評価では、上記のスクアレンモノヒドロペルオキシドの皮膚炎症作用を抑制できる成分の探索を進め、トコトリエノール(米糠に特徴的に含まれる不飽和ビタミンE)の有効性を確認した。 以上のように、研究は計画通り順調に推移したと言える。
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