生物は外界から栄養を摂取することにより生命を維持しているが、生体には摂取したエネルギーを一時的にグリコーゲンやTGとして体内に蓄え、栄養が不足した際に利用する巧妙な機構が存在する。摂食によるTG合成(貯蔵)の活性化は主に転写因子SREBP-1やLXRにより担われている。本研究では昨年度までに、Midlip1(MIG12)遺伝子発現が摂食により転写レベルで活性化すること、またその活性化はLXRおよびChREBPが直接的にMIG12遺伝子プロモーター領域に結合し、転写を亢進することを明らかにした。さらに、MIG12が脂肪酸合成を亢進することを示した。本年度は、MIG12がACC(脂肪酸合成系の酵素)のポリマー化を促すことにより、その活性を亢進させることを明らかにした。MIG12がACCと複合体を形成すること、MIGI2のC末端に存在するロイシンジッパー領域がACCポリマー化に必須であることを明らかにした。 H型糖尿病モデルマウス肝臓でのMIG12mRNA発現レベルを検証したところ、db/dbマウスならびに高脂肪食負荷マウスで約2倍に上昇していた。これらのモデルマウスでは脂肪肝が発症しており、脂肪肝発症にMIG12発現の上昇が関与する可能性が考えられた。 肝臓での脂肪酸合成は転写や翻訳レベルさらには酵素活性レベルでの厳密な制御が知られているが、ACCのポリマー化調節によってその活性制御を行う分子の報告はこれまでに無く、本研究は脂肪酸合成制御に新たな機構を提示する、非常に重要な発見につながった。ACCのポリマー化による活性化は生化学の教科書にも記載されている基本的な事象ではあるが、その詳細な制御機構についてはほとんど明らかにされていない。今後、MIG12の機能解析を通じて、ACCポリマー化制御の分子機構を明らかにできると考えられる。
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