研究課題
大腸癌の発症抑制に関与するAryl hydrocarbon receptor(AhR)及び腸炎症を抑制することが報告されているPregnane X receptor(PXR)に注目し、これらを活性化する食品因子の探索評価系を昨年度構築した。それを用いてスクリーニングをおこなった結果、発芽3日後のブロッコリースプラウト熱水抽出物にAhR活性化能が見出された。AhRは大腸癌発症に関わるβ-カテニンの分解を誘導することから、核内β-カテニン量に対するブロッコリースプラウト熱水抽出物の作用を検討したところ、核内β-カテニン量の減少がみられた。また昨年度構築したアゾキシメタン(AOM)投与による大腸前癌モデルマウスにブロッコリースプラウト熱水抽出物を前もって投与したところ、AOMのみを投与した群では大腸前癌の指標である大腸異常腺窩巣(aberrant crypt foci ; ACF)が大腸全体に発生していたが、ブロッコリーを投与した群では有意なACF形成抑制効果がみられた。また大腸粘膜の核内β-カテニンの発現量を解析した結果、ブロッコリー熱水抽出物を投与した群では核内β-カテニン量の減少がみられた。一方で、PXRを活性化する食品因子として大豆イソフラポンの代謝物であるエクオールを見出した。エクオールはPXR強発現下でTNF-αによるNFκBの活性化及びNFκB標的遺伝子の発現亢進を有意に抑制した。そこでNFκB活性化の関与が知られ昨年度構築したデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)投与による大腸炎モデルマウスにエクオールを前もって投与した。その結果、体重の減少や下痢・血便、また大腸炎にみられる結腸の短縮がエクオール投与群ではいずれも有意に軽減された。また大腸粘膜における炎症マーカーでありNFκB標的遺伝子であるTNF-αやCOX-2、MIP-2などのmRNA発現はDSS群では顕著に増加したが、エクオール投与によってこれらはいずれも有意に抑制された。以上の結果より、ブロッコリー熱水抽出物はAhR活性化を介して大腸前癌病変を改善すること、一方エクオールはPXR活性化を介して大腸炎症状を改善することがそれぞれ強く示唆された。
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