ガン組織において観察されるように、組織は肥大化に伴い組織内部に低酸素領域を生じる。一方、肥満とは脂肪組織の肥大化であると考えられるが、肥満によってもたらされる低酸素ストレスが脂肪細胞の機能に与える影響ついては不明な点が多い。そこで本研究では、脂肪細胞を低酸素ストレス環境で培養し、脂肪細胞において低酸素ストレスによって誘導される応答を評価した。本研究では脂肪細胞として3T3-L1細胞を分化、成熟させたものを用いたる脂肪細胞を1%酸素分圧下の低酸素ストレス下で培養した所、血管内皮増殖因子(VFGF)の産生が亢進し、脂肪細胞の分化初期においては脂質蓄積が亢進されることが明らかとなった。さらに、これらの低酸素応答はaktの阻害剤であるLY294002で抑制されることも明らかとなり、このような低酸素ストレス応答におけるakt経路の重要性が示唆された。また、低酸素ストレスは前駆脂肪細胞において単球走化性因子(MCP)-1の産生を亢進することが明らかとなった。これらの結果から、低酸素ストレスに対して脂肪組織中の脂肪細胞はVEGFの産生亢進を介した血管新生し、脂質蓄積の亢進といった応答をすると考えられた。また、前駆脂肪細胞はMCP-1産生を通じて、脂肪組織内へ単球の遊走を誘導した結果、炎症惹起に関わる可能性が示された。近年、脂肪組織における慢性的な炎症は、脂肪細胞からのアディポカインの産生バランスを崩壊させることによって、肥満関連疾患の発症の引き金になっていることが明らかとなって来ている。そのため、これらの低酸素ストレスに対する応答は肥満および肥満関連疾病の増悪因子になることが想定され、低酸素ストレス応答抑制が肥満や生活習慣病の予防に有用であることが示唆された。
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