ガン組織において観察されるように、組織は肥大化に伴い組織内部に低酸素領域を生じる。一方、肥満とは脂肪組織の肥大化であると考えられるが、肥満によってもたらされる低酸素ストレスが脂肪細胞の機能に与える影響ついては不明な点が多い。平成22年度において低酸素ストレスによって、脂肪細胞や前駆脂肪細胞からは血管新生誘導、炎症惹起に関わる分子の産生が誘導されるとともに、脂質の蓄積が亢進することを明らかとした。本年はそのような低酸素ストレス応答メカニズムを検討した。その結果、低酸素ストレスによって脂肪細胞内ではHypoxia-inducible factor-1αの蓄積が認められた。脂質の蓄積が亢進に特に着目した所、低酸素下では細胞内油滴が小型化されることが明らかとなり、その生理的意義について今後検討が必要である。また、細胞内シグナル伝達経路を解析したところ、akt経路の活性化が認められ、逆にERK経路は低酸素下で強力に抑制されていた。Akt阻害剤により脂質蓄積の亢進は抑制されたが、ERK阻害剤によって低酸素処理で認められたような脂質蓄積の亢進は認められなかった。このことから、低酸素ストレスにおける脂質蓄積亢進にはakt経路が中心的な役割を果たす一方、低酸素ストレスによって生じるその他の表現系に対するERK経路の関与について検討を進める必要がある。以上の結果から、低酸素ストレスの応答抑制にAkt経路の抑制が有用であることが示唆されたが、低酸素ストレスによって様々な表現系が生じるため、低酸素ストレス応答のシグナル伝達をより明らかにすることによって肥満や生活習慣病予防に有用な分子標的の発見に繋がる事が期待される。
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