80%以上のヒト癌組織に検出され、細胞に無限増殖能を与える酵素“テロメラーゼ”は、癌診断の新たなマーカーとしての利用が期待される一方で、その酵素活性の阻害による癌治療への応用が近年世界的に注目を集めている。申請者はテロメラーゼ阻害物質を食品成分から探索した結果、カロテノイドの一種であるβ-カロテンを新たに発見した。そこで平成22年度では、1)カロテノイドによるテロメラーゼ抑制効果とその作用機序の解明、2)カロテノイドのテロメラーゼ抑制作用に影響を及ぼす食品成分の探索、についての基盤的解明を図ることを目的とした。 β-カロテンは癌遺伝子c-mycとテロメラーゼ触媒サブユニットhTERTの遺伝子発現を抑制することで、テロメラーゼ活性を転写レベルで阻害することがわかった。β-カロテンを単独で癌細胞に処理すると、生理的な条件よりも比較的高濃度でテロメラーゼ活性を阻害するが、ビタミンE(α-トコフェロール)をβ-カロテンと同時に処理すると、生理的なβ-カロテン濃度(5μM)でもテロメラーゼの有意な阻害効果が認められた。 以上より、β-カロテンによるテロメラーゼ活性阻害の分子機構の一端を解明し、その効果を飛躍的に高める食品成分を見出した。これらの成果は食品成分による癌予防に結びつくと期待されるため、食品学、栄養学、生化学にとどまらず、薬学や医学の分野に大きく展開できると考えられる。また、食品成分を高付加価値化できるために食品産業の活性化が図られるとともに、高齢化が進む日本人の健康維持への貢献や増大する国民医療費の抑制にもつながる可能性があるため、社会的意義と波及性が大きい。
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