研究概要 |
80%以上のヒト癌組織に検出され、細胞に無限増殖能を与える酵素"テロメラーゼ"は、癌診断の新たなマーカーとしての利用が期待される一方で、その酵素活性の阻害による癌治療への応用が近年世界的に注目を集めている。我々は、テロメラーゼ阻害物質を食品成分から探索した結果、カロテノイドの一種であるβ-カロテンを新たに発見した。そこで平成23年度は、カロテノイドのテロメラーゼ抑制効果をin vivoで検証することを目的とした。 ヒト前立腺癌細胞DU145をヌードマウス(BALB/cAJcl-nu,nu/nu)背部皮下に移植し、β-カロテンを胃内ゾンデにより経口摂取させた。その結果、β-カロテンの単独投与よりもβ-カロテンとビタミンEを同時に投与することで腫瘍組織の有意な退縮が認められた。また、β-カロテンとビタミンEの投与によりその腫瘍におけるテロメラーゼ活性とテロメラーゼ触媒サブユニットhTERTの遺伝子発現が抑制され、テロメア長の短縮も確認できた。このことから、β-カロテンとビタミンEはテロメラーゼ活性の阻害を介して腫瘍の増殖を抑制すると考えられた。 以上より、カロテノイドによるテロメラーゼ阻害作用をin vivoで明らかにした。β-カロテンとビタミンEの同時摂取はテロメラーゼ阻害を介した癌の発症・進展予防に役立つ可能性があり、また、これらの成果は生化学、食品化学、栄養学にとどまらず、薬学や医学の分野に展開できると考えられ、社会的意義・重要性が高いと言える。
|