ヒトの腸管内には多種多様な腸内共生細菌群が棲息しており、腸管上皮細胞群や粘膜免疫細胞群と複雑に相互作用することで、腸内環境生態系、すなわち「腸内エコシステム」を形成している。近年、これらの腸内共生細菌叢の改善による腸管関連疾患や感染症などの改善・予防効果が明らかになってきており、それと共にビフィズス菌などのプロバイオティクスの有用性が健康維持・予防医学の面から認識されているが、それらの効果を裏づける科学的根拠は乏しいのが現状であった。われわれはこれまでに、腸管出血性大腸菌O157:H7感染マウスモデルを用いて、プロバイオティクスの1種であるビフィズス菌がO157感染を予防できることを明らかにした。このプロバイオティックビフィズス菌は、ABC型の糖質のトランスポーターを発現することで、単糖の一種である果糖を代謝し、酢酸を産生することを明らかにした。産生された酢酸が大腸上皮細胞のバリア機能を高めることでO157感染によって生じる炎症を抑制したことから、本遺伝子を「プロバイオティックトランスポーター遺伝子」として同定した。本研究ではプロバイオティックトランスポーター遺伝子の効果を証明するため、プロバイオティクスとしての機能を持たないビフィズス菌にプロバイオティックトランスポーター遺伝子を形質転換し、O157感染マウスモデルを用いてその機能を評価した。その結果、プロバイオティックトランスポーター遺伝子導入ビフィズス菌を無菌マウスに定着させたモノアソシエイトマウスでは、プロバイオティックトランスポーター遺伝子導入ビフィズス菌による大腸内での酢酸産生量が増加し、O157感染によって生じる炎症が抑制された。以上のことから、プロバイオティックビフィズス菌による腸管出血性大腸菌O157:H7感染予防メカニズムの一つとして、プロバイオティックトランスポーターの有無がその指標になることを明らかにした。
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