研究概要 |
遺伝子発現情報を利用した樹木のストレス診断技術を確立するためには、林木のゲノム網羅的な発現遺伝子のストレス応答特性を明らかにする必要がある。本研究では、日本の森林で衰退問題を抱えるブナを対象に、遺伝子の網羅的発現解析に必要なDNAマイクロアレイ解析手法の確立を行い、衰退原因として危惧される環境ストレス要因として高温、乾燥、酸化ストレスに注目して、ブナ葉で各環境ストレスに特異的な発現パターンを示す遺伝子の一次スクリーニングをDNAマイクロアレイ法により行った。 DNAマイクロアレイは次世代シーケンサーによってブナ葉の完全長cDNAライブラリーの塩基配列を解読して、ブナ42,616 ESTs(機能推定済みが12,446遺伝子)を取得した。この塩基配列に基づき、60塩基のプローブを設計して、アジレント社製のシステムを用いたDNAマイクロアレイ解析をブナ葉で可能にした。 7月中旬に陽樹冠から採取し、現地で乾燥、高温(34℃)、H_2O_2(200mM)のストレスを2時間および10時間施した供試葉から全RNAを抽出して、DNAマイクロアレイ法によって各ストレスに対して特異的に発現量が変動した遺伝子を調べた。各ストレスに対する応答として特徴的な機能をもつ遺伝子群ファミリーが明らかとなり、各環境ストレスに特異的な発現誘導を示す遺伝子を明らかにした。その中には、植物生理学の知見と一致する傾向を示す発現パターンの遺伝子が多かったが、他方で、従来の一般的な知見に反する野外サンプル特有と考えられる発現パターンも確認できた。さらに、複数の環境ストレス要因に共通で発現量を変動させる遺伝子が比較的少なかった。このことは、遺伝子間のネットワークが環境ストレスに対して独立に作用していることを示唆しており、発現遺伝子の診断手法の利用を進めて行くにあたり好都合な特徴と言えた。
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