研究概要 |
遺伝子発現情報を利用した樹木のストレス診断技術を確立するためには、林木のゲノム網羅的な発現遺伝子のストレス応答特性を明らかにする必要がある。本研究では、日本の森林で衰退問題を抱えるブナを対象に、衰退原因として危惧される環境ストレス要因として高温、乾燥、酸性・酸化性ストレスに注目して、ブナ葉で各環境ストレスに特異的な発現パターンを示す遺伝子の一次スクリーニングをDNAマイクロアレイ法により行った。本年度は土壌乾燥時とその後の乾燥前歴を指標する遺伝子の探索を行った。 研究材料はポット植えの5年生ブナ苗木であった。生育環境は人工気象室(日長:15h/9h,気温:25℃/18℃,湿度:68%,光強度:200μmolm^<-2>s^<-1> )で制御した。土壌水分条件は、無灌水期間の長さで調節し、異なる強度の土壌乾燥処理を行った(対照、弱乾燥、強乾燥処理区;n=7)。光合成速度の測定結果から平均的な挙動を示した4個体を対象木に絞り込み、遺伝子発現の解析を行った。遺伝子発現解析はDNAマイクロアレイ法を用い、機能推定した約12,446個の遺伝子を含む合計43,803個の遺伝子のmRNA量を調べた。 土壌乾燥の時、発現量を2倍以上に増加させた遺伝子の数は弱乾燥(pF=2.6,ψ_L=-2.0MPa)で615個と強乾燥(pF=2.9,ψ_L=-2.1MPa)で1,713個あった。とくに弱乾燥と強乾燥に特異的な発現量の増加を示した遺伝子の数はそれぞれ320個と1,408個であった。弱乾燥と強乾燥から再灌水10日後において発現量が2倍以上に増加した遺伝子の数は、それぞれ801個と558個であった。とくに弱乾燥と強乾燥の前歴に特異的な発現の増加を示した遺伝子の数はそれぞれ515個と272個であった。以上から、土壌乾燥強度に依存した発現を示す遺伝子と土壌乾燥強度の前歴に依存した発現を示す遺伝子の存在を明らかにできた。発現遺伝子はブナの水ストレスの大きさとその前歴を指標することができると考えることができた。
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