北東北3県(岩手、秋田、青森)および北海道のコンビニエンスストアーを対象に実施したクスサンの分布アンケート調査から、北東北全域には以前から、そして北海道の北部や東部では最近になってクスサン成虫が確認されていることが明らかになった。一方で、継続的かつ大規模な森林被害は北海道でしか報告されていない。この理由を明らかにするための一つの仮説として、北海道にはクスサンにとって好適な食樹であるウダイカンバの成木の純林が広く分布していることが考えられた。飼育実験においてウダイカンバの成木と稚樹の葉では、稚樹の葉ではほとんどクスサンが育たないのに対し、成木の葉では旺盛な成長と生存率を有することから、両者の防御形質について分析したところ、窒素量、フェノール類に違いが見られる事が明らかになった。しかしまだ、クスサンの生存や成長を規定する物質を特定するところまでは解析が進んでいないため今後も継続して分析を進める必要がある。また、もう一つの残された課題としては天敵の存在が挙げられる。飼育実験から、クリはウダイカンバの次に好適な食樹であることが示されており、本州のクリ農園ではクリが高密度で植栽されている。今回、クリ生産地として有名な熊本県のクリ農園に過去から現在に至るまでのクスサン発生状況についてインタビューを行ったが、過去に発生例はあるものの、大規模な被害を受けた例はなく、好適な植樹が密植されている場所でもなんらかのシステムでクスサンの大発生が抑制されていると考えられ、今後は大発生が起きていない場所でクスサン消長に影響を与えているものを明らかにする必要があると考える。
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