研究概要 |
本研究課題の期間全体を通した目的は,アジアの2箇所(日本サイト,タイサイト)の山地林生態系をモデルサイトとして,樹冠部における無機イオン物質の循環プロセス,すなわち,樹冠部への降水・霧による湿性沈着,樹冠部への粒子状・ガス状物質の乾性沈着,樹冠部での溶脱・吸収といった物質の循環過程を現地観測により定量的に解明し,既存のモデルの適用可能性の確認や改良をおこなうことにある.研究期間の初年度にあたる本年度では,まず,2箇所の研究サイトにおいて,1.降水・霧による湿性沈着量,2.インファレンシャル法による粒子状・ガス状物質の乾性沈着量,3.林内雨・樹幹流による全沈着量を,時間連続的に現地観測するためのシステムを構築し,本研究課題の基盤である定期的な観測データの収集を開始した.また,本課題に先行してタイサイトで収集していた観測データを用いて,同サイトの霧の発生パターンの解析し,同サイトの森林生態系が霧によってどれほど涵養されているかという点について検討し(Tanaka et al.2010,Tanaka et al.2011),さらに,同サイトで霧サンプルの採取のために使用している霧コレクターの性能についても検討した(Tanaka et al. submitted).また,日本サイトにおける先行データに対して,樹冠部の物質収支モデルを試行的に適用し,その適用可能性について検討をおこなった(今村ら,2010).これらの先行データを用いた検討結果は,いずれも,本年度から開始している一連の観測結果の整理・理解を進めるものと期待される.
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