研究課題
本研究は,アジアの2箇所の山地林生態系(日本のブナ林サイト,タイの丘陵性常緑林サイト)をモデルサイトとして,現地観測により,森林の樹冠部における無機イオン物質の循環プロセス,すなわち,1)樹冠部への降水・霧による湿性沈着,2)樹冠部への粒子状・ガス状物質の乾性沈着,3)樹冠部での溶脱・吸収といった物質の循環過程を定量的に解明し,欧米で開発されてきたモデル(樹冠収支モデル)の適用可能性の確認や改良をおこなうことを目的とした.モデルサイトはともに山地に位置しているため,特に,山地霧が物質循環に与える影響に着目した.本研究の開始直後より,2サイトにおいて,降水・霧による湿性沈着量,乾性沈着量,林内雨・樹幹流を介して林床に到達する全沈着量を,時間連続的に現地観測するためのシステムを構築し,定期的な観測データの収集を開始した.また,それらの定常的な観測システムを維持しつつ,霧水の化学性を正確に把握するために,アクティブ型の霧水サンプラーを現地に設置した.日本のブナ林サイトについて,1)同サイトのブナとイヌブナの林内雨や樹幹流によって樹冠下へ供給される1年間のKの量は,同サイトのツガより多いこと,2)常緑針葉樹であるツガの樹冠下に供給されるMgとCaとNO3の量はブナやイヌブナよりも大きいことを明らかにした(今村ら,2012).タイの丘陵性常緑林においては,乾季から雨季への移行期の降水・林内雨に含まれる各物質濃度が高くなる傾向が見られ,同サイトの物質循環過程が,降水の季節性(雨季・乾季)に対応して大きく変化することが明らかとなった.また,取得された観測データを既存の樹冠収支モデルへの適用した結果,本研究が対象にしたような山地林生態系においては,樹冠収支モデルの重要なトレーサーイオンである降水・林内雨のNa濃度が低くため,既存モデルの改良が必要であることがわかった.
24年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
Ecohydrology
巻: 6 ページ: 125-133
10.1002/eco.284
巻: 6 ページ: 134-141
10.1002/eco.1253
日本森林学会誌
巻: 94 ページ: 74-83