ニホンジカ(以下シカ)による樹木への剥皮害は、天然林・人工林を問わず大きな問題となっており、効率的な防除のために剥皮害の発生予察が求められている。これまでにも、造林地の環境要因などから剥皮害発生予測モデルを構築した研究例が存在するが、過去の例ではシカが樹皮を餌として選択する際に関与していると考えられる「シカの餌環境」が要因として考慮されていない。本研究では、造林地の環境要因の他、シカの餌環境の指標を剥皮害発生予測モデルに加えることにより、より当てはまりのよいモデルを構築することを目指した。三重県津市青山高原周辺のスギ・ヒノキ造林地に計12カ所のプロットを設置し、立地環境(標高、傾斜、シカの糞塊数)、造林木(樹種、DBH)および下層植生について現地調査を実施した。シカの餌環境のパラメータとして各プロットにおける糞分析結果および周辺植生区分(3区分:人工林、広葉樹林、草地)の面積を用いた。これらのデータをもとに、一般化線形混合モデル(GLMM)を用いたモデル構築をおこなった。解析の結果、プロット単位において、被害木割合と標高および傾斜には負の相関がみられた。また、AICによるモデル選択の結果、シカの餌構成または周辺の植生環境を加えたモデルが最適モデルとなった。立木単位において、剥皮害の有無と傾斜は負の相関、DBHは正の相関があり、剥皮害はヒノキに多い傾向がみられた。また、AICによるモデル選択の結果、周辺の植生環境を加えたモデルが最適モデルとなった。これらの結果から、シカの餌環境を考慮することで、剥皮害発生予測モデルを改善できる事が明らかとなった。
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