ニホンジカ(以下シカ)による樹木への剥皮害は、天然林・人工林を問わず大きな問題となっており、効率的な防除のために剥皮害の発生予察が求められている。これまでにも、造林地の環境要因などから剥皮害発生予測モデルを構築した研究例が存在するが、過去の例ではシカが樹皮を餌として選択する際に関与していると考えられる「シカの餌環境」が要因として考慮されていない。本研究では、人工林および天然林において、シカの餌環境の指標を剥皮害発生予測モデルに加えたモデルを構築することを目指した。 今年度は昨年度に引き続き、奈良県大台ケ原において、シカの剥皮被害に関する定量的な調査を実施するための固定調査区を12カ所設置し毎木調査と林床植生調査を実施した。また、5月、7月、9月及び11月に固定調査区内の立木に発生した剥皮の量を計測した。さらに、シカの食性を明らかにするため、前述の調査毎にシカの糞を採取した。現地調査のデータを集計し、剥皮量の季節的変化と樹種選択性について解析した。また、本調査地の過去の毎木調査データと現在のデータを比較し、シカの剥皮における選択性が森林の変遷に与える影響について検討した。 今年度の調査の結果、大台ケ原では1年を通して剥皮が発生しており、そのピークは夏期(7~9月)と冬期(11~5月)の2回確認された。また、剥皮の発生する環境要因について一般化線形混合モデルによる解析をおこなったところ、胸高直径(DBH)、林床植生(餌環境)、およびシカの利用頻度が剥皮発生と正の相関をもっている事が明らかとなった。シカによる剥皮発生はDBHと負の相関を持つ事例がこれまでに幾つか紹介されているが、本課題におけるH22年度成果および本年度成果において剥皮発生とDBHとに正の相関が確認されたことは、複数存在すると考えられるシカによる剥皮発生のメカニズムを解明する重要な手がかりとなる。
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