研究概要 |
平成23年度は,新たに富山・島根サイトも調査地に加え,北海道・青森・秋田・京都・奈良・島根・高知・沖縄サイトで渓流水・降水の採取を開始し,水質の測定を行った。また,富山・千葉・滋賀・福岡サイトでは,各サイト担当者から水質データや植生データの利用の許可を取得した。一部の渓流水・降水サンプルは,硝酸の窒素・酸素の安定同位体比の測定を行った。富山サイトでは,毎木調査を実施してバイオマスの推定を行い,リタートラップを設置して生産量推定に向けた準備を行った。北海道・青森・島根・福岡サイトではすでに設置しているリタートラップを利用して試料採取を開始した。各地域間で渓流水中の硝酸態窒素濃度や季節性に違いが認められ,窒素循環機構の地域性が存在している可能性が示された。シカによる下層植生の衰退が著しい京都サイトでは,防鹿柵の設置によって下層植生が回復した集水域と,隣接する対照集水域との間で窒素流出や下層植生による窒素保持量を比較した。その結果,下層植生による窒素保持が,集水域からの窒素流出を強く規定することが示され,植生による窒素保持が窒素流出を抑制する重要な要因であることが分かった。富山サイト2地点のうち,1地点で渓流水中の硝酸態窒素濃度が極めて高く,窒素飽和現象が懸念された。近接する富山サイトの別の1地点では硝酸態窒素濃度が低いことから,窒素飽和の原因について植物の生葉やリター,土壌の成分を2地点間で比較解析することで明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
残りあと1年で,引き続き渓流水・降水の採取・分析,リターの採取・分析を行う。また,渓流水・降水中の硝酸の窒素・酸素同位体の測定も引き続き進めて渓流水中に含まれる硝酸の降雨寄与率を算出する。加えて,土壌の採取・分析を行い,窒素生成・吸着能を評価する。新たにとられたデータに加え,すでに各サイトで取られているデータを整理し,メタ解析を行うことで,日本の森林において窒素循環・窒素流出を規定する要因を明らかにする。
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