研究課題
近年,日本で森林からの窒素流出が増加する地域が見られ,窒素飽和が懸念されている。窒素飽和の主要な指標として,渓流水中の硝酸態窒素の濃度レベル,その季節性,窒素保持率(窒素流入量に対する窒素流出量の割合)が挙げられる。しかし,依然として森林渓流の硝酸態窒素の流出要因が明らかにされてない。本研究では,全国29の森林集水域を対象に月1~4回,降水や渓流水の定期採水を行い,広域比較によって硝酸態窒素の流出の規定要因を明らかにすることを目的とした。渓流水硝酸態窒素濃度の年平均値は,年降水量の多い地域で低い傾向が見られたが,濃度の高い地域には共通した気象条件が見られなかった。また,渓流水の硝酸濃度と窒素安定同位体比との間には相関はなく,酸素同位体比とは弱い正の相関が認められた。このことは,降水由来の硝酸が土壌微生物や植物に利用されず流亡しやすい森林ほど渓流水の硝酸濃度が高いことを示し,生物活動と水文過程の相互作用によって濃度が規定されることを示唆する。日本海側に典型的な冬季積雪型で春先に融雪出水がみられる地域は,渓流水の硝酸態窒素が冬に高く,夏に低い傾向を示したのに対し,太平洋側に典型的な夏雨型地域では,降雨時に濃度が上昇し,年間を通して一定の季節性が見られなかった。窒素収支の観点から窒素飽和の定義に該当しない地域でも,季節性が見られない森林集水域が存在した。このことから,硝酸態窒素濃度の季節性は積雪量や降雨の季節性で規定され,季節性の有無から窒素飽和の可能性について言及できないものと考えられた。本研究結果をもとに,欧米で開発された物質循環モデル(PnET-CN)のパラメータを調整し,日本のスギ林,ヒノキ林,落葉広葉樹林に適用した。その結果,今後の窒素降下物量に対する窒素流出を精度よく予測するためには,過去100年程度までの土地利用履歴や森林施業履歴が不可欠であることが分かった。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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