窒素飽和とは、人間活動により放出された窒素化合物が大気経由で森林に蓄積し、生態系が窒素過剰な状態に陥ることである。このような森林では、渓流へのNO_3^-流出量が増大するため、水源水質の劣化や湖沼の富栄養化などが引き起こされる危険性がある。さらに、窒素飽和森林では、土壌からの一酸化窒素(NO)ガスの発生量が増大することも指摘されている。NO発生量の増加は、酸性雨やオゾンの増加を引き起こすため、森林生態系にダメージを与える可能性がある。本研究の目的は、窒素飽和が大気中へのNO発生増加に及ぼす影響を定量的に評価することである。そのため、土壌からのNO発生量を低コストで正確に計測する手法を開発し、森林への高い窒素負荷が土壌微生物作用を介してNOガス発生量に与える影響を調べる。 初年度は、土壌のNO発生ポテンシャルを測定する方法を開発した。測定装置は、NOx濃度測定-清浄空気供給装置(Watanabe et al.2008)を改良して作成した。土壌を1Lのガラス培養瓶に充填し、密閉した状態で、容器内の空気をNOガス捕集フィルターに通しながら循環させ、一定期間培養できる構造にした。土壌から発生したNOが全てフィルターに捕集されること、および容器内に常にNOフリーな清浄空気が供給されることは、室内実験により確認した。また、容器内の空気の滞留時間を約1分と短くすることで、発生したNOがNO_2に酸化されたり、土壌に吸収される前に捕集できるようにした。フィルター捕集したNOは、NO_2^-として水抽出し、イオンクロマトグラフィーで定量できた。以上から、単位時間あたり、単位土壌重量あたりのNO発生ポテンシャルが算出できることを確認した。
|