森林樹木の天然更新は初期段階において菌害による阻害を大きく受けている。森林の維持管理のためには、天然更新阻害要因としての菌害発生メカニズムと、菌害に対する樹木実生の防御機能を明らかにする必要がある。冷温帯を代表するブナの天然更新においても、実生のほとんどは菌害によって枯死するが、強光環境では組織学的および化学的防御機能が発達し生残することが明らかになっており、防御機能と環境要因の対応関係を詳細に調査する必要がある。本研究では、ブナ実生の立枯病発生メカニズムとその中における実生の防御機能の役割に着目し、実生定着の成否を分ける環境要因を防御機能の発達程度によって評価することを目的とし、天然更新施業の高度化に寄与すること目標としている。ブナ林に設置した試験地では、野外のブナ林では、強光環境になるほど立枯病の発生率が低く、カテキン類が高濃度で蓄積されていたことから、実生の生残が防御機能の発達により制御されることが示唆された。また、実験室内の異なる光環境下で栽培したブナ実生において病原菌を接種し、病原菌の侵入に対する動的な防御機能の発達程度の解析を進めた結果、生残実生の接種部でカテキン類が増加したのに対し周皮が形成されていなかったことから、侵入した病原菌に対しては化学的防御機構だけで防御できることが示唆された。この成果は、森林生態系の個体群生態を理解するための新たな着眼点を提供しており、学会発表や原著論文、および季刊森林総研などの解説誌を通じて普及に取り組んでいることから、今後様々な樹種の研究に応用されることが期待される。
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