研究課題
樹木の二次木部の細胞壁形成は、複雑かつ協調的に制御されているが、その遺伝子発現制御機構はほとんど未解明である。しかし、分子育種によって効果的かつ精緻な材質制御を行うには、この複雑な遺伝子発現制御機構を明らかにしなければならない。そこで、本研究では、樹木の二次木部の細胞壁形成過程における遺伝子発現制御機構の概略を明らかにするため、木質成分のうち、二次木部の主要細胞壁成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)の生合成に焦点を絞り、これらの生合成を制御する転写因子を同定し、転写因子を介した遺伝子発現制御機構を明らかにすることを目的とした。この目的を達成するため、1)転写因子遺伝子の候補の選定、2)転写因子遺伝子発現量の定量、3)転写因子遺伝子の全長cDNAのクローニング、4)全長cDNAを過剰発現および発現抑制させた形質転換体の作出、5)形質転換体の細胞壁成分の解析、6)転写因子遺伝子の組織・細胞レベルでの発現局在、7)転写因子が制御する下流遺伝子の同定、下流遺伝子のプロモーターに存在するシスエレメントの特定、を行うことを計画し、本年度は、このうち1)~4)を行った。すなわち、二次木部に顕著に発現する転写因子のクローニングを行い、MYB17と命名した。野生型と比べ、MYB17の過剰発現体では、葉が異常に縮れ、根および茎の伸長が阻害された。一方、MYB17の発現抑制個体では、茎の伸長速度が増大し、葉幅が狭くなるという表現型を示した。ゲルシフトアッセイにより、MYB17がグルコマンナン合成酵素遺伝子のプロモーター断片に結合することが示されたことから、MYB17は、グルコマンナン合成酵素遺伝子の転写活性化を促進する転写因子であると示唆された。
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J.Wood Sci.
巻: 57 ページ: 40-46